看板を制作するにあたって、多くの人が悩む要素の一つがキャッチコピーです。せっかく素晴らしいデザインに仕上がっても、キャッチコピーがイマイチだと、記憶に残る可能性は減ってしまうでしょう。この記事では、キャッチコピーを考える指針として、印象に残る言葉をつくるためのポイントを解説します。

 

◇誰に何を届けたいのか?ターゲット設定から始めよう

街中に数えきれないほど存在する看板。一つずつ見ていくと、一瞬で心を掴まれるキャッチコピーもあれば、何を伝えたいのかよく分からないものもあります。その差は、どこから生まれるのでしょうか。実は、効果的なキャッチコピーの根幹には、明確な「ターゲット設定」が存在しているのです。ここでは、今日から使える考え方のコツをご紹介します。

 

◎なぜ「誰に」が最初なのか?絞れば刺さる言葉が生まれる

キャッチコピーを作りたい時、つい「自店のサービスの良さ」を並べたくなりませんか?しかし、それでは独りよがりな文章になりがちです。大切なのは、「誰に向けてのメッセージなのか」 を最初に決めておくこと。年齢・職業といった基本属性はもちろん、「どんなことに悩んでいるのか」「何に価値を感じるのか」まで想像力を巡らせましょう。ターゲットのペルソナを詳細に設定すればするほど、その人にだけに刺さる言葉を選べるようになります。「全ての人に刺さるキャッチコピー」を目指すと、逆に誰の心にも響かない、ぼやけた言葉になってしまう可能性が高いのです。

 

◎「誰に」が決まったら、次は「何を」届けるかを考える

ターゲット像が明確になったら、次はその人に 「自社がどんな価値を提供できるか」 を考えましょう。

キャッチコピーで重要なのは、商品やサービスの「機能」そのものではなく、それがもたらす 「ベネフィット(利益・恩恵)」 を伝えることです。

例えば、ターゲットが「子育てで疲弊した30代前半の母親」だとします。

  • 機能の説明: 「高反発マットレス販売」
  • ベネフィットの提示: 「限られた睡眠時間でも、スッキリした朝を。」

後者は、ターゲットの悩み(睡眠時間の短さと疲労感)に直接寄り添い、商品を購入した先にある「ベネフィット」を約束しています。看板を見た顧客は、商品そのものではなく、その先にある「生活の嬉しい変化」に惹かれて行動を起こすのです。

 

◎実践!ターゲット設定からキャッチコピーを作る流れ

以上を踏まえて、具体的な流れを整理してみましょう。

  1. ターゲットを極限まで具体化する:
    • 例:「20代女性会社員」→「都会で一人暮らし中。仕事も趣味も充実させたいと思っているが、料理は苦手で、夕食はコンビニやスーパーで済ませがちな25歳のOL」
  2. ターゲットの悩みや願望を言語化する:
    • 例:「身体に良いものを食べたいけど、料理は面倒くさい」「簡単にできて、SNS映えするおしゃれな食事がしたい」
  3. 商品・サービスがもたらすベネフィットを結びつける:
    • 例:(ミールキットサービスの場合)「手間いらずで、栄養バランスが良く、見た目もおしゃれな食事」という価値を提供できる。
  4. キャッチコピーに落とし込む:
    • 例:「たったの5分でおしゃれな食卓を。QOL向上に貢献します」

 

 

◇共感・安心・メリットの3要素を盛り込むテクニック

前章では、効果的なキャッチコピーの土台となる「誰に、何を」というターゲット設定の重要性をお伝えしました。ここでは、その設定をもとに、人の心を動かし行動を促す要素——共感・安心・メリット——を盛り込む具体的なテクニックを解説します。これを押さえるだけで、看板の訴求力は格段にアップするはずです。

 

◎「共感」で心の扉を開ける – あなたの気持ち、わかっています

キャッチコピーの最初の一歩は、ターゲットの心に「そうそう、その通り!」と共感の波を起こすことです。キャッチコピーの冒頭でターゲット層の悩み、不満、日常の小さな困りごとを代弁することで、「この事業者は私のことを理解してくれている」という親近感と信頼を生み出します。

  • テクニック: 「〇〇の悩み、ありませんか?」「〇〇でお困りではありませんか?」という問いかけは、看板を見ているまさにその人に直接語りかける効果があり、非常に有効です。
  • 例(整体院の看板):
  • Before:「整体院 骨盤矯正承ります」
  • After:「長時間のパソコン仕事、首や肩がこりませんか?」

Afterのコピーは、デスクワーカーというターゲットの具体的な悩みに寄り添い、看板を通じて共感を生みます。

 

◎「安心」でためらいを解消する – 大丈夫、信頼できる私たちです

共感で心が動いた後、次に多くの人が感じるのは「でも、本当に解決するのかな?」「信じていいのか?」という「ためらい」です。ここで重要なのが、「安心材料」 を提示すること。それは実績や資格、保証、または身近な人々の口コミなど、あなたのサービスを信頼できる理由です。

  • テクニック: 数字や権威、客観的視点を入れると説得力が増します。「延べ〇人施術」「国家資格保有」「○○受賞」など、具体的であるほど効果的です。
  • 例(先ほどの整体院の続き):
  • After:「長時間のパソコン仕事に肩こりを感じていませんか?専門資格を持つスタッフが、丁寧に原因からアプローチします。

「資格」という信頼の証を加えることで、技術的な安心感を与え、次の行動(予約や来店)への心理的ハードルを下げます。

 

◎「メリット」で行動を促す – だから、あなたは得をする!

共感と安心を得て、最後の一押しとなるのが、「メリット」 の提示です。これは前章でお話しした「ベネフィット」と同義で、顧客が得られる「嬉しい未来」や「良い変化」を、感情に響く形で明確に伝えます。「〜になれます」「〜が手に入ります」と、結果に焦点を当てた表現が効果的です。

  • テクニック: できるだけポジティブで、感情的、かつ具体的な表現を選びましょう。「快適に」よりも「気持ちいい朝が迎えられる」、「綺麗に」よりも「10歳若返ったと言われるように」の方がインパクトがあります。
  • 例(整体院の完成形):
  • 完成版:「長時間のパソコン仕事に肩こりを感じていませんか?資格保有のスタッフが原因からアプローチ。すっきりした首肩と、気持ちのいい朝をあなたに。」

ここまでくると、共感(悩みの代弁)→安心(資格への信頼)→メリット(理想の状態)という流れができ、看板を見た人が「よし、行ってみよう」という気持ちになりやすいのです。

 

 

◇短くても伝わる!言葉を削ぎ落とす編集思考

看板は「走行中」や「歩きながら」見られる媒体です。だからこそ、キャッチコピーはとにかく「短く、印象的」である必要があります。多くの情報を詰め込みたい気持ちをぐっとこらえ、余計な言葉を削ぎ落とす工夫が、人の心に刺さるコピーを生み出す最後の鍵です。ここでは、情報を凝縮して伝える力を飛躍させる、3つの思考法をご紹介します。

 

◎結論ファースト。一番言いたいことを最初に持ってくる

看板を見る人は、長い文章を最初から最後まで読んでくれはしません。最も伝えたい核心は、絶対に最初に持ってきましょう。冒頭数秒で興味を引きつけられなければ、その後になにを書いても読まれることはないからです。

  • テクニック: 一度文章を作ったら、その文の最後にある結論(ベネフィット)を、文頭に移動させてみてください。劇的に印象が変わり、メッセージが前置きなしで届きます。
  • 例(英会話スクール):
    • Before: 「当スクールは初心者に優しいカリキュラムであり、3ヶ月で旅行英会話がマスターできます」
    • After: 「3ヶ月で旅行英会話をマスター。旅を夢見る初心者のためのスクール。」

Afterでは、最も大きなメリットである「3ヶ月でマスターできる」を最前列に配置し、短い言葉で理由づけをしています。

 

◎形容詞・副詞は疑え。具体性で置き換える

「すごい」「とても」「しっかり」といった抽象的な形容詞や副詞は、情報量がゼロに等しく、誇張として顧客の不安を煽るだけです。それらを削除し、具体的な数字・事実・根拠・シーンに置き換えることで、説得力と透明性が生まれます。

  • テクニック: 「おいしい」→「地元産の〇〇使用」、「しっかりサポート」→「専属スタッフが24時間フォロー」など、具体的な事実で表現できないか考えます。
  • 例(宅配弁当):
    • Before: 「とってもおいしい健康弁当」
    • After: 「糖質50%OFF。医師監修の健康弁当」

「おいしい」という主観的な言葉を削り、「糖質OFF」「医師監修」という具体的で権威のある事実に置き換えることで、商品の価値が明確に伝わります。

 

◎一文一義。複数のメッセージは分散させるな

ひとつの文章に複数の要素を詰め込むと、どれもが薄まり、魅力が伝わりません。看板のキャッチコピーは「一文一義(いちぶんいちぎ)」が鉄則です。一つの看板で伝えるメッセージは一つに絞り、どうしても複数伝えたい場合は、デザインを工夫して見た目で情報を整理しましょう。

  • テクニック: 句点「。」を適度に使い、短文を重ねるリズムのある文体を心がけます。情報は「キャッチ」「リード文」「特典」など、役割ごとに分けましょう。
  • 例(エステサロン):
    • Before: 「当サロンは高濃度のビタミンC導入でお肌の悩みを解決し且つリラックスできる空間をご提供いたします」
    • After:
      • 【大見出し】 「1回5分の高濃度ビタミンC導入。」
      • 【小見出し】 「忙しいあなたのための、集中ケア。」

Beforeは情報が複合して重たい印象ですが、Afterは「施術の内容」と「それによるベネフィット」を短文で整理し、すっきりと且つ強く伝えています。

 

 

◇まとめ

キャッチコピーには、すべてを1文に詰め込む必要はありません。看板という媒体であれば、優先順位を付けてデザインの中で見やすく配置するのがコツです。まずは「共感」で目を留めさせ、「安心」と「メリット」で確信と期待を与える。この流れを意識して、徐々に洗練させていきましょう。言葉を削る作業は、自分の商品への深い理解と、顧客への想像力が問われます。無駄をそぎ落とし、核心だけを残したとき、はじめて看板は強力な「営業マン」になるのです。